第6話 ガメゴン鍋
グレン領にある雪原地区。
そこにある住宅村から外れたところに、ひっそりと営業しているお店があった。
ウェディ族の若き女性が経営している喫茶店である。
彼女の名前はリリ。
この物語は、彼女が働く喫茶店で繰り広げられる何気ない日常の物語である。
私は、今夜のお店の準備をしていた。
窓ガラスを拭いているときに、ふと外の景色を見る。
「今日もよく降るわねぇ。」
外では深々と雪が降っていた。
「お姉、いる~?」
開いた玄関のその先には、可愛らしいエルフの少女が立っていた。
「あ、ララちゃん。いらっしゃ~い。」
ララは私の所にやってきて。
「ほら、この前頼まれていた素材。」
持っていた大きな袋を私に手渡した。
「ありがとう。大変だったでしょう。」
「大したことはなかったよ、別に強くはなかったし。」
私は貰った袋を広げて、入っているものを見る。
「しかも、ちゃんと下ごしらえまでしてくれてる。本当助かるわぁ。」
「まぁ、いつもお姉の手伝いしているからねぇ。覚えちゃったわ。」
「ふふふ、頼りにしてる。」
そして、私は袋に入っているものをまな板の上に置いた。
「で、今回はそれを食材にするの・・・?てか、食べられるの?」
まな板に置いたものを怪訝そうに見つめるララが言う。
「食べられるよ、地方によってはれっきとした食材として使われてるし。」
「ふーん。」
そう言いながら、ララはお茶をずずずと飲んだ。
「まぁ、でも食べるのはいいんだけど、ちょっと副作用がねぇ。」
そう、これは食べるとおいしいがその後がすごく困ることになるのだ。
「え、どうなるの?」
「ちょっと、言えない感じになっちゃうの。美味しいんだけどねぇ。」
にやりと私は答える。
「マジかぁ。」
何かを察したララは手を頭においてため息をした。
「それにしてもララちゃん。お着換えしたら?汗で下着湿ってるえしょう?」
「そうだった、炎の領界に行ってたからめっちゃ汗かいてたんだった。」
「ここ、雪国だから寒かったでしょ。風邪ひく前に着替えちゃいなさい。」
「はーい。」
椅子から飛び降りた彼女は、スタッフ控室の方に歩いていく。
途中、私の方に振り向いて
「じゃあ、お姉。お金はいつもの所に振り込んでて。」
と念を押した感じに言って行った。
「うん、分かった。次もよろしくね。」
私は笑顔で答え
「さてと、これどうしようかな。」
まな板の上に出ている、モノを見つめながら考えていた。
次の日。
お店の開店準備をしていたとき、店の外から声が聞こえてきた。
「おい、本当にここにいいのか?」
「間違いないよ。あの人の言ってたお店って絶対ここだよ。」
かすかに聞こえる男女の声。
その声が、近づいてきて
カラーン
ドアが開いて、鈴の音が響いた。
「すいませーん。」
「はーい。」
そこにいたのは私と同じウェディ族の少女と、見慣れないツノと無精ひげを生やした男性がいた。
年頃は20代ぐらいだろうか。
この辺りには見かけない顔の人みたいだ。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
私は二人に駆け寄った。
「あ、はいそうです。」
「かしこまりました、それではこちらの席にお座りください。」
私は、和室のテーブル席に案内する。
「 ここは、変わったテーブルだな」
「ふふふ、珍しいでしょ。エルトナ大陸で流行っているのよ。」
「ほう、中が温かいな。」
「コタツっていうの、面白いでしょ。」
「うん、すっごく温かい。 外が寒かったからちょうどいいわね。」
「もしかして、お二人は、恋人ですか?」
「え、そ、そう見えるかな」
「なるほどねぇ。」
「じゃあ、あの料理が良いかしら。」
「え?メニューはないの?」
「あぁ、うちのお店はメニューはなくて私がお客様に併せて出すのよ」
「ほう、それは面白そうだな。
俺たちに合うような料理か。楽しみだ。」
「そうだね、ユシュカ♪」
「それでは、少々お待ち下さい」
戸棚から出した土鍋を軽く温める。
いい感じの温度になったら、水を入れて再び温める。
その間に、ツスクルの村から仕入れた様々な野菜をざっくりと切っていき土鍋の中に入れていく。
さて、続いてはお肉だ。
本日のメインデッシュ、このお肉は炎の領界にいるあの魔物のお肉。
ちょうどいい弾力と淡白な味ながら、周りの味を吸い込み作ったお鍋に適した味に変化していく。
そのお肉をスライスし、お鍋の中に入れていく。
醤油、味醂、砂糖を適度な配合で鍋の中をまんべんなく入れていき、しばらく煮込んでいく。
「うーん、いい匂いが充満しているわ」
「あぁ、これはうまそうな匂いだ。どんな料理が出てくるんだろうな。」
ぐつぐつと煮込んでいき、適量な時間になって私は火を止めた。
出来上がった鍋を、二人の座っている炬燵にもっていく。
「はい、どうぞ召し上がれ。エルトナ風煮込み亀鍋にございます。」
「か・・・・。」
「め・・・・?」
「なぁ、亀は見当たらないんだが。」
「まぁ、騙されたと思って食べてみてくださいよ。」
「あ、ああ。」
「おいしぃ!」
「こいつは、ウマいな。」
「濃すぎずかと言って、決して味がないわけじゃない。」
「エルトナ料理をベースとしているんです。エルトナは旨味を主に主軸とした料理がたくさんあるんですよ。」
「へぇ。そうなんだ。」
「う~ん、この肉も出汁に絡まっていい感じ。」
「はぁ、美味しかった。」
「そうだな、来てよかったな。」
「さぁて、そろそろかな。」
「えっ?」
「な、何この感じ!体が焼けるように熱い」
「これは、一体・・・」
「ユ、ユシュカ!ユシュカのここすごいことに!」
「なっ!どうなってるんだこれは。」
「教えてあげる。ガメゴンの肉って滋養強壮剤にも使われていてねぇ。」
「少量なら、体力回復程度なんだけど。たくさん入れた上にさらに血をすこーし入れててね。」
「えっ?」
「この血の成分って、淫剤にも使われてるんですって。」
「あぁ、私にもいい人いないかなぁ。」
「だ、だめ。ユシュカ。もう私我慢できない。」
「お、おい、ここ人の店だぞ」
「あー、私用事を思い出した。数時間ちょっと留守にするねぇ。」
「あ、そうそう。」
「そこに酔っぱらいを寝かしつけるための布団があるからよかったら使ってね。」
「あ、おい。ちょっと!」
「ごゆっくりー」
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